神鳥の卵 第28話


カレンとスザクがナナリーの乗る車を護衛しながら目的地を目指す。
途中であの怪しい車たちがまた合流してしまったが、ナナリーが暮らす屋敷がどこにあるかは周知の事実なので、彼らをまく意味はないと諦めた。こちらが車を止めれば彼らは何事もなかったかのように通り過ぎるだけだし、護衛の数が多ければ相手を停車させたりといろいろできるが、こちらはスザクとカレン、咲世子のみ。警察の護衛も断っているため今は放置するしかないのだ。
まあ、こうやって付け回されるのはよくあること。
殆どがパパラッチだが、危険な連中も中にはいる。悪逆皇帝ルルーシュを信奉していた者たちから見ればナナリーは悪そのもので、ルルーシュの作る世界を奪った敵だったため、仇討ちだと狙うものもいるのだ。そういう者たちはシュナイゼルが地道に駆除してきたが、今回はゼロ狙いの新たな勢力のためまだ手が回っていない。簡単な連絡は先程のガソリンスタンドで済ませたので、彼らが姿を消すのは時間の問題だ。
スザクたちはやがて山の方へと車を進めた。この先は私有地のため関係者以外の車は通らない。それなのに、問題の車は距離を開けながら後をつけてくる。馬鹿じゃないかと思うが、そもそも行く先がわかってる相手をつけてきてる時点で馬鹿だし、それをあからさまな方法で付け回すのも馬鹿だ。やるならドローンなどを使って上空からこっそりこちらを観察すべきだろう。とはいえここから先にある屋敷の門からはドローンなどの侵入はできないようロイドたちの手によって最新鋭の防衛ラインが引かれているし、衛星カメラでも中が見えないように細工がされている。

『あいつら、なに考えてるのかしら?』

銃撃に警戒しながらカレンは言った。
万が一の時に一番危険な場所にいるのはカレンだ。
機関銃を乱射したところでカレンに当たるとは思えないが、過信はできない。
自爆テロで門を壊し、機関銃を乱射なんて可能性も否定できない。そういう意味で一番適したテロのタイミングは、ナナリーが門を抜けるときだ。

「ナナリーが門を抜けたら処理するよ」

今動いてナナリーに何かあったら困る。
どのみちこの先の門より先に彼らは入れないし、屋敷にいるジェレミアとアーニャが加われば戦力も整うが、彼らの手を煩わせるほどでもないだろう。牽制を兼ねて、スザクは咲世子に道を譲り、カレンと並走するようにバイクを走らせた。

『あのねえ、あんたが狙いかもしれないのよ?やるなら私たちでやるわ』

あんたゼロでしょ?万一顔見られたらアウトなのよ?と、カレンが呆れたように言う。私たち、というのは、門を超えたらスザクが咲世子と運転を後退し、咲世子とカレンで始末をするということだ。
黒の騎士団の信頼できる幹部に全て打ち明ければ、ここの警備に黒の騎士団の信頼できるものをまわすことができるのだが、悪逆皇帝と裏切りの騎士の生存は黒の騎士団を、いや英雄ゼロさえも殺す劇薬になりかねないのでその案はルルーシュが却下した。警察などを警備につけないのもそれが理由だ。警備の数を増やすだけなら、普通の車に偽装した無人の戦闘車両を用意すれば事足りるという。

「そんなミスはしないよ」
『されたら困るわよ。あんたはおとなしくナナリーを守ってなさい』

この会話も傍受されている危険がある。だから、カレンと咲世子、そしてスザクも変声期で声を変えているし、誰なのか特定するような会話はしないようにしている。ほんとうはこの会話を相手が傍受し、ゼロに絶対の忠誠を誓う親衛隊長カレンがこんな口の聞き方をしていることを知り、これはゼロではないと判断して引いてくれるほうが楽なのだが。

『おふたりとも、間もなく門に到着します』
『了解です。二人は先に門へ』
「・・・いや、全員門に入ろう。諦めたようだ」

こちらの警戒に気づいたのか、これ以上は無理だと判断したのか、つけてきていた車は遠くで停車していた。この道に沿っている森のなかに仲間がいる可能性は今の段階では無い。ロイドたちのセンサーに引っかからない相手なら、とっくに門の向こうの情報も手に入れているだろうし、そんな相手なら門に入る前に、この私道に入ってすぐに攻撃を仕掛けたはずだ。

『引いたの?・・・何だったのかしら?』

意味がわからないとカレンは困惑したようにいった。

『念のため、車とバイクに細工がないか確認をしてからお屋敷へ向かいましょう』

彼らは意識を引く役目で、実は車などにすでに何かしらを仕掛けていた可能性は否定できない。最悪の事態を想定し、その最悪を回避するてをうつのは当然のことだ。

『何もなければいいんだけど』

幸い、車やバイクには何もなく、スザクたちに盗聴器などが仕掛けられていることもなかった。だが、いや、だから余計に、かれらが何の目的でつきまとっていたのかが気になる。
門の近くにある整備室から出、車とバイクは敷地内の奥へと進んだ。
オレンジ畑が広がるそこは、爽やかな香りにつつまれていた。
ジェレミアが、今まで経営していたオレンジ畑を従業員と信頼できるものに任せ、あらたに作った果樹園だった。木々も若く収穫はまだまだできないが、日に日に成長するオレンジの木を見るのをナナリーは楽しんでおり、それだけで果樹園を作ったかいがあったとジェレミアは男泣きしたものだ。本当ならアリエスの離宮のような園庭を作るべきだと思うが、ルルーシュがそんな無駄をする必要はないと却下した。あれはあれで美しいが、維持が大変だし、同じ植物を愛でるなら収穫できるオレンジのほうがいいと言うのだ。まあこのへんは、ジェレミアとアーニャに気を使ったのだろう。今は果樹園だけではなくそこそこ規模の大きな家庭菜園も行っている。
そんな果樹園を抜けた先にある大きな屋敷。
そこが、彼らの楽園であった。

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